※自転車研究家の鈴木邦友評議員からの報告です。(2015年1月5日)
後輪が650-42B 前輪が27.5×1.95
650Bが世界を走る日
近頃、29インチとか27.5インチという車輪サイズを耳にするようになった。雑誌やネットでもやたら目にする。今やこのサイズを知らないと浦島太郎になってしまいそうなくらいに・・・・・。
早速パソコンで検索してみると、マウンテンバイク用の新しい車輪規格であることがわかった。
今までマウンテンバイクといえば、26×1.75H/Eのワンサイズだけだった。しかしこれからはこの二つのサイズが加わることにより、計3種のマウンテンバイクが世界を走り回ることになる。
ところで、この新しい車輪を調べてみると、29インチはETRTO標記で622、27.5インチは584となっている。この数字を見てピンときた方も多いだろう。622といえば700C、584は650Bのことだ。700Cは今でもスポルティフ等のスポーツ車に多くに採用されているサイズで、英国式の標記では28×1-3/4(28×1-5/8)のこと、650Bはその昔マニア向けのランドナーやキャンピング等旅行用自転車に使われていたサイズで、英国式標記では26×1-1/2のこととなる。特に後者は、日本の自転車文化に大きな影響を与えた仏国のルネルスに使用されていた車輪サイズで、私たちアドベンチャーサイクリストの愛車にも多く使われていた。今ではほとんど見ることはなくなったサイズで、旧いスタイルを愛する熱狂的旅行用自転車マニアの間で愛用されているくらいだ。
リムは旧い国産の650B
つまりETRTO上では「29インチ=700C」、「27.5インチ=650B」ということになる。
ところで、マウンテンバイクの車輪と旅行用自転車の車輪は、その構造が基本的に異なる。JISでは前者をH/E(フックドエッジ)後者をW/O(ワイヤードオン)と、ISOでは前者をH/B(フックドビード)後者をS/S(ストレートサイド)と分類し、前者はタイヤのビード部分をリムの淵の内側に設けられたエッジにひっかけて固定する構造、後者はタイヤのビード部分をリム内側の奥に設けられた腰掛(ビードシート)のような形状の部分に座らせるようにして固定する構造のものとしている。標記方法も、前者はそのサイズを表すのに小数を使うのに対し、後者は分数を採用しその違いを明確化している。
ということで、自転車をちょっとかじったことのある方であれば、同じETRTO標記であっても、両者は全く異なるものという判断となる。
感覚的にも、29インチ=700Cは何となく理解できるものの、650Bというそんな古臭いサイズを今さらのように引っ張り出してくるというのは不思議な感じがする。
ネット上でも、「それぞれの間には互換性はなく全く異なるもの」とする解説の方が多い。
「これらの車輪は一体どういったものなのだろうか?」特にこの27.5インチというサイズは旅行用自転車好きの筆者に非常に気になる存在となった。
ということで、実際に27.5インチなるタイヤを入手し、筆者が所有する1970年代に作られた650B仕様の国産キャンピング車にあてがってみた。
27.5の隣に584の文字が見える
その結果は・・・・・。予想を見事裏切ってくれた。なんとマウンテンバイクなる名称すら存在しない時代の650Bリム(幅狭のクロチェットタイプ)にぴったりおさまってしまったのだ。空気圧を規定以上に上げても全く問題ない。ちなみに別のリム(幅広のストレートサイドタイプ)でも試してみたが同じ結果となった。実験の結果、「27.5インチ=650B」という答えが出た。
このことをわかりやすく標記するならば、
29インチ = 700C = 622 = 28×1-3/4(28×1-5/8)
27.5インチ = 650B = 584 = 26×1-1/2
ということになる。
そこでもう一度前述のリム形状の問題を調べなおしてみた。するとISOでは結構前からH/E(H/B)とW/O(S/S)の間に厳密な区別がなく、両者の兼用も承認されていたということがわかった。実際W/O特有のビードシートを有するH/Eリムや、H/E特有のフック部の存在するW/Oリムというのも存在していたようだ。(ちなみにビードシートとフックの両方を持つリムをクロチェットタイプという。)そういえば舶来のスーパーチャンピオンやマビック等のW/Oリムには1960年代からフック部が見られた。ISOでも幅の狭いW/Oリムはフック部のあるもののみ承認していたようだ。それどころかETRTOにはそもそもその違いを示す標記はない。ようするにこの29インチや27.5インチには、H/EとかW/Oという区別がないということになる。
しかもこの27.5インチは既存の26×1.75を抑えてこれからのマウンテンバイクのスタンダードになるという話までも流れている。
そのうちツーリング車向けのおしゃれなタイヤも出てくるだろう
ということは、今後世界中にこのサイズが出回ってゆくということが予測されるわけで、私たちアドベンシャーサイクリストにとっても、世界で最も手入が簡単で使いやすいスタンダードなサイズになってゆくということになる。
本来旅行用自転車のために輸入された650Bが、半世紀たった今ようやく日本の自転車文化の中で定着を見ようとしている。650Bは旅行用自転車にとって最も適したサイズであり、自転車が最も美しく見えるサイズ。マニアサイクリストにも、アドベンチャーサイクリストにも、ちょっとうれしい時代がやってきたということになる。
鈴木邦友
まさにマウンテンバイク
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