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※自転車研究家の鈴木邦友評議員からの報告です。(2013年4月19日)

  

サビに注意Ⅱ

高分子材料の劣化

       
   太陽光線により光酸化劣化したオープンサイドタイヤのナイロンコード

 金属はサビる。自然素材は腐る。ということで近年高分子材料を使ったものが増えている。こんな名称を使うと何やら難しい材料のように聞こえてしまったかもしれないが、通常プラスチックとかビニール、ゴムとか樹脂といわれるものがそれで、加工性が高いこと、軽いこと、安いこと等々多くの特徴から様々な分野で大量にそして便利に使われている。しかも金属の代わりとなるような固く強靭なものから絹のようにしなやかなもの、ゴムのように弾力性に富んだもの、酸や塩に侵されにくいもの、摩擦に強いもの等様々な特性をもったものが存在するため、それぞれ最適な場所に使えるということも大きなメリットになっている。最近の工業製品でこれらの材料が使われていないものはないほど、中には全ての部分が高分子材料からできているなんてものもある。金属材料や無機材料、天然素材ではできなかったことまで可能にし、それらに代わる素材にもなっている。

もちろん私たちの自転車にも高分子材料の部分が多く見受けられ、そのパーセンテージも増えつづけている。サドルはすでにビニールが常識で、ドロヨケもアルミやステンレスからプラスチックに代わりつつある。サンプレの変速機は昔からデルリンという樹脂が使われている。高分子材料でなければ時代遅れであるがごとく。


光の影響を受けやすいプラスチックパーツ  デルリンと呼ばれる樹脂で作られた変速機


 
しかしこの素晴らしい材料も、高分子材料ならではの弱点を持っている。その一つが金属同様酸化してしまうこと。つまりサビてしまうことだ。高分子材料がさびるというと不思議な感じもするが、金属同様酸素と化学的に反応し分解され寿命を迎えてしまうことになる。

 まず高分子材料とはどのような物質かというと、糸状の分子が絡み合ってその形を成している。簡単に理解していただくとするならば、不織布のような素材をイメージしていただければいいと思う。そのため健康的な高分子材料は弾力的で粘り強い。ところがだ、一般的にそれらの分子は光(特に紫外線)エネルギーに対し敏感なものが多く、光を長く浴びているとその分子が切れやすくなる。そしてその切れたところに空気中の酸素が結び付き、一本一本の分子が短くなったまま安定してしまう。一本一本の分子が短くなることにより分子間の絡み合いが弱くなり、本来の柔軟性や強度が失われてしまうことになる。これは光酸化劣化と呼ばれるもので、長年使っているナイロン製のバッグやテントが切れやすくなるのもまさにこれによるもの。その他ランプのレンズが黄ばみ細かくひび割れてきたり、プラスチックの表面が粉をふいたようになり表面がはげ落ちてきたり、塗装面がざらついてきたりするのもこのためだ。放っておけば劣化はさらに進行し、強度が低下し、やがて破壊してしまう。


光により変質したマップケース    光酸化劣化と長期間内部応力で割れた 


外力により割れが生じた泥よけフラップ    光と外力によりひび割れてしまうタイヤサイド     

そしてもう一つ、高分子材料にはその物性から来るところの劣化がある。それは、液体と固体の性質を持ち合わせていることに起因するもの。高分子材料の多くはしっかりした形を持つ個体のように見える。しかし実際には時間とともに形を変える液体の性格をも持つ。もちろん一般的に液体と呼ばれるものと比べれば変形する時間は極めて長いが、力をかけつづけていると年月とともにその形を変えてゆく。それを簡単に表現するならば「極めて硬い液体」といったところか。そのことを金属との比較でみてゆくと、金属は外力を加えると変形するがその力を抜けば元に戻る。また大きな力を加えるとそれが降伏点を越えた場合には力を抜いても元には戻らなくなる。そして曲がったまま安定する。加えて曲がった部分は硬くなる。それに対し高分子材料では、弱い外力を与えた場合は金属同様力を抜けば元に戻るが、そのような弱い力でも時間の経過とともに戻る量が減少し、元の形状にならなくなる。また大きな力をかけつづけた場合、金属とは異なりはるかに大きな変形を伴いながら破断に至る。これらの特性は輪ゴムを思い浮かべていただくとわかりやすい。指で引っ張って伸ばしても力を抜けば瞬時に元に戻る。しかし丸めたポスターをとめるために巻かれた輪ゴムは、時間の経過とともに伸びやがて切れ落ちる。さらに放置するとゴム自体が水あめのように溶けだし、ポスターに浸み込んでゆく。

その他、普通高分子材料は熱に弱く、薬品や溶剤、油にも敏感。中には水分やカビに侵されやすいものもある。それに加え、一度劣化させてしまうと直しようがないという欠点をも持ち合わせ、劣化防止のメンテナンスにも完璧なものがない。多くの場合壊れた時点で寿命となってしまう。

では、長距離自転車旅行では高分子材料に対しどのように対応したらよいかというと、

    無用に陽に当てておかないこと。陽に当たっている時間と劣化速度は比例する。

    力が常態として加わる部分への使用は避けること。ようするにそのような部分に高分子が使われているようなパーツは控えるべき。

    薬品や油、溶剤等が付いたらそのままにせず早めに拭き取っておくこと。

    高温になるところで保管したり近づけたりしないこと。

等が上げられる。これらに注意しておけば劣化はかなり緩和できる。

 また時々高分子専用の保護材を塗布しておくことも、劣化速度を抑えるには効果的だ。

 

高分子材料の劣化もまた自転車にとって大きな故障や事故の原因となる。

 これらの取扱いには十分気を配り、快適な旅をしていただきたいと思う

  
    光の影響を受けないようにテーピングされたスペアタイヤ

     
 旅行中でも自転車に乗らない時には光の影響を受けないようカバーをかけておいた方がよい。 雨や樹液、汚染物質からも守られ、さらに盗難防止にもなる

 
     時々高分子材料用の保護材を塗布しておくことも効果的

        
部品を保管するときも、光や酸、湿度や温度の変化、また外力の影響を受けないように気を配るべき

        


                                         鈴木邦友


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