※自転車研究家の鈴木邦友評議員からの報告です。(2015年9月7日)
ホテルのベランダで大修理 よみがえった愛車
宿の子供たちと出発前の記念撮影
リムの修正
空港に降り立ったときには、日はどっぷり暮れていた。
空港の到着ロビーの片隅で、自転車を組み立てようと輪行袋を開く。その瞬間とんでもない事態に目を疑った。なんということか目で見てもわかるくらいにリムが左右に曲がっている。しかも厄介な後輪だ。フレームに組み付けてみるとチェーンステーにタイヤがぶつかる。スポークを締めなおしてみるがブレーキに擦ってしまう。お手上げだ。ちょうど安宿の客引きの人に声をかけられたので、車に載せていってもらうことにした。
次の日は街に出てリムを探す。ところがこの国には36穴のリムがない。全ての自転車が前輪32穴、後輪40穴だ。マウンテンバイク用には36穴があるものの、径が合わないのでアウト。もうこうなったら修理しかない。曲がったリムを相手に一日悪戦苦闘することになった。
幸運にもスポークに損傷はなかった。ニップルを全て緩め、リムの曲がった部分にあて木をし、体重をかけ曲げ戻してみることにした。アルミリムのためそこそこ戻ってくれた。走るには問題の無いレベルになった。
その街を出ると、国境まで長~い半未舗装の峠越えとなった。はじめは何とかもってくれたが、しばらくすると振れが出はじめた。スポークを締めなおしてもまた振れる。その繰り返しとなった。毎日これじゃえらいこっちゃ。山の中の小さな村に宿とり、大修理となった。
まず前輪と後輪のリムを入れ替えることにした。前輪はハブフランジ幅が広く、シンメトリーだからだ。しかも前輪リムは後輪リムに比べサイドの摩耗が少なく元気。前リムの後輪への移植はことなく済んだ。
さて次は、問題のリムの修理だ。曲がったリムを調整の終わった後輪リムに重ねてみる。縦の狂いはほとんどないようだが、左右にはインフィニティのごとく歪みが残っている。まずは「く」の字となったところに木の枕を置き体重をかけて徹底的に修正。アルマイトが白く濁るのが気にかかる。次にリム幅自体も狭くなってしまっているので、スパナで挟んで引っ張り出す。そして大きなゆがみは、後輪に重ね様子を見ながら、体重をかけ少しずつ取り除いてゆく。その作業を何度も繰り返す。重ねた後輪リムとの隙間は縦横とも1ミリ以内まで落ち着いた。
組立ては慎重にバランスをとりながら少しずつ張力をかけてゆく。できた車輪は新車のごとくだった。もちろん走りはじめは振れが出てきたものの、調整を繰り返すうちに安定し、2、3日でピッタリ止まった。ブレーキング時に多少の引っ掛かりを覚えたが、それもいつしか舶来リムの継手ぐらいにまで落ち着いた。なんとかこのまま世界一周はつづけられそうだ。
ということをふと思い出し、先日25年ぶりに今乗っている自転車のリムの修正をやってみた。お恥ずかしながら縦と横に歪ませてしまったリムだ。今まではスポーク調整だけでだましだまし使っていたのだが、あまりにスポークの張力に差が出ていて気になっていたからだ。
まず縦の曲りは、その両わきに木の枕を置き、リムの内側に木をあて3キロのハンマーで少しずつ叩きだす。やりすぎると外側に出っ張ってしまうので、新品のリムに合わせながら慎重におこなった。横の作業は昔やったとおり、体重をかけグイグイと曲げ戻すことになった。今乗っている自転車は幅の狭いリムということもあってか結構簡単に直ってしまった。張力バランスも最大で数%ほどに戻った。
今もまだ品薄状態がつづくツーリズム向け560Bリム。中でも国産のアルマイト仕様はマニアがけぎらいしていたこともありとても希少。交換修理は不可能に近い。ということで鈑金修理に迫られることになる。今後サイドバックを積んで何万キロも走ることは考えられないので強度上の問題もなかろう。
これでまた快適にサイクリングが楽しめるようになった。
鈴木邦友
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